日本の都道府県で最も面積が小さい香川県。
しかし、今、この「小さな県」が世界の旅行者から熱烈な視線を浴びています。
かつては「うどん県」として国内旅行の定番だった香川が、2025年の最新データでは、驚異的な伸び率でインバウンド(訪日外国人旅行)の最前線へと躍り出ました。なぜ、これほどまでに多くの外国人が香川を目指すのでしょうか。
本記事では、観光庁が発表した2025年の宿泊統計速報値をベースに、香川県を訪れる外国人の国籍や目的、そしてその背景にある「アート」と「食」の強力な磁引力を徹底解説します。
① この記事の3つの驚き
データを読み解く前に、まず香川のインバウンド現状を象徴する「3つの驚き」をお伝えします。
台湾人が宿泊全体の34.4%を占め断トツ1位
香川を訪れる外国人の3人に1人以上が台湾人です。インバウンド先進地である北海道の台湾人シェア(24.9% ※2024年値)をはるかに上回る、全国でも類を見ない「突出した台湾集中度」を誇ります。
外国人延べ宿泊者数945,540人——2019年比で+442%という激変
パンデミック前の2019年と比較して、宿泊者数は約4.4倍という驚異的な成長を遂げました。2025年は3年に一度の「瀬戸内国際芸術祭」開催年であり、その集客効果が数字を大きく押し上げています。
欧米勢(米・英・独・仏・豪)がしっかり存在
アジア圏が中心の地方都市において、香川は欧米からの観光客も高い割合で維持しています。その背景には、世界的アートの聖地「直島」という唯一無二のブランドがあります。
② 香川インバウンドの全体像
2025年の香川県における外国人観光の勢いは、数字を見れば一目瞭然です。まずは全体的なボリュームを把握しましょう。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 外国人延べ宿泊者数(2025年速報値) | 945,540人 |
| 外国人延べ宿泊者数(2019年比) | +442%(※1) |
| 四国全体(2024年確定値・参考) | 1,664,340人泊 |
| 台湾のシェア(香川県内) | 34.4%(全国最高水準) |
香川県の外国人延べ宿泊者数は約94万5千人。四国全体のインバウンドが好調に推移する中、香川はその中でも際立った存在感を示しています。2019年比で442%増という数字は、全国平均の伸び率と比較しても異常なほど高く、香川が「今、世界に見つかった」状態であることを示しています。
なお、2025年は「瀬戸内国際芸術祭2025」(4月〜11月)の開催年にあたり、本データにはその強力な集客効果が反映されている点に留意が必要です。芸術祭がもたらす国際的な注目度が、宿泊者数を劇的に押し上げる原動力となっています。
【データについての注記】 本記事のデータはすべて観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年(令和7年)年間値速報値に基づきます。従業者数10人以上の施設を対象とした調査結果です。速報値のため、後日公表される確定値で数値が修正される可能性があります。香川県独自の外国人統計は公表されていないため、観光庁のデータを活用し分析しています。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年(令和7年)年間値速報値 (※1)せとうちDMO「観光指標モニタリング年次レポート」比較参照
③ 国籍別ランキング:香川を愛する人々はどこから?
では、具体的にどの国の人々が香川に泊まっているのでしょうか。ランキング形式で詳細を見ていきましょう。
| 順位 | 国籍 | 延べ宿泊者数 | 構成比 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 台湾 | 325,510人 | 34.4% |
| 2位 | 中国 | 173,400人 | 18.3% |
| 3位 | 韓国 | 165,600人 | 17.5% |
| 4位 | 香港 | 63,920人 | 6.8% |
| 5位 | 米国 | 27,480人 | 2.9% |
| 6位 | オーストラリア | 15,290人 | 1.6% |
| 7位 | フランス | 10,150人 | 1.1% |
| 8位 | 英国 | 9,800人 | 1.0% |
| 9位 | ドイツ | 8,490人 | 0.9% |
| 10位 | カナダ | 6,050人 | 0.6% |
| — | その他 | 139,850人 | 14.8% |
| 合計 | — | 945,540人 | 100% |
※「その他」にはシンガポール・タイ・イタリア・スペインなどトップ10圏外の国籍すべてを含む。
解説:データが示す香川インバウンドの「特異性」
1. 台湾シェア「34.4%」の圧倒的インパクト
最も注目すべきは、やはり台湾の存在感です。32万5千人という数字は、香川に泊まる外国人の3人に1人以上を占めます。インバウンド先進地の北海道(24.9%/2024年値)や岐阜県(13.7%/2024年値)と比較しても、香川の台湾シェアは突出しています(※年度が異なるため参考比較)。香川県は、特定の国からこれほどまで集中的に愛されている非常に珍しい自治体といえます。
2. 東アジア3カ国で全体の7割を占める強固な基盤
台湾(34.4%)、中国(18.3%)、韓国(17.5%)の3カ国を合わせると、全体の約7割を超えます。この東アジア勢の多さは、高松空港の国際線路線の充実と密接に関係しています。特に台北(桃園)便やソウル(仁川)便といった定期便の存在が、個人旅行者(FIT)の足を香川へと向けさせる強力な導線となっています。
3. 欧米5カ国が上位に並ぶ「質の高い」多様性
5位から10位に注目してください。米国、オーストラリア、フランス、英国、ドイツと、欧米諸国がずらりと並んでいます。地方都市のランキングでは、通常、周辺のアジア諸国(タイ、ベトナムなど)が上位を占めることが多いのですが、香川は欧米圏のシェアが合計で約8%存在します。滞在期間が長く、消費単価も高い欧米層が「香川を目的地として選んでいる」という事実は、香川の観光資源が世界レベルであることを証明しています。
④ 二つの顔——「直島アート」と「うどん聖地」
なぜ、これほどまで多様な人々が香川を訪れるのでしょうか。そこには、世界の旅行者のニーズを完璧に満たす「二つの強力な顔」があります。
1. 「直島」という世界的アートの聖地
欧米勢(米・英・仏・独)が香川を目指す最大の理由は、間違いなく「アート」です。
世界が認めた唯一無二の場所: ベネッセアートサイト直島を中心に、安藤忠雄氏設計の「地中美術館」や「李禹煥美術館」、そして豊島の「豊島美術館」など、島そのものが美術館となった風景は、世界中のメディアで絶賛されています。
メディアでの評価: NYタイムズ、CNN、そして旅行ガイドのバイブル「Lonely Planet」などが、繰り返し「死ぬまでに行くべき場所」として直島や瀬戸内の島々を挙げています。欧米の感度の高い旅行者にとって、東京・京都、そして「直島」は、日本旅行のルートに組み込むべき必須のピースとなっています。
瀬戸内国際芸術祭の功績: 2025年に開催されている「瀬戸内国際芸術祭」は、直島だけでなく女木島、男木島、小豆島など周辺の島々へも観光客を誘導し、リピーターを生み出す土壌を形成しています。精神的な癒やしや発見を求める「体験型観光」の最高峰として認知されています。
2. 「うどん聖地巡礼」という食のエンターテインメント
一方で、台湾を中心としたアジア圏の観光客を惹きつけて離さないのが「讃岐うどん」です。
SNS発のインバウンドトレンド: InstagramやTikTokなどで「Udon」のハッシュタグを追うと、香川ののどかな風景の中にある行列のできるうどん店の投稿が溢れています。セルフ形式の注文方法や、早朝から営業する店舗を巡る「巡礼」というスタイルそのものが、アジアの若者にとってクールな体験として消費されています。
人口比全国1位の店舗数: 香川県のうどん店数は、人口比で全国圧倒的1位です。どこに行っても美味しく、安いという「圧倒的なコストパフォーマンス」と「本物感」が、リピート率を高めています。
食とアートの融合: うどん目的で訪れた観光客が直島へも足を運び、アート目的で来た欧米人がうどんの魅力にハマる、という相互作用も起きています。「ハイカルチャー(アート)」と「ローカルカルチャー(うどん)」の絶妙なバランスこそが、香川最大の強みです。
⑤ 考察「なぜ台湾人はこれほどまでに香川を選ぶのか」
なぜ、香川の台湾人シェアは34.4%という突出した数字になったのでしょうか。
1. 物理的な「近さ」とLCCの定着
高松空港から台北(桃園空港)までは、飛行機で約3時間。この「国内旅行感覚」で来られる手軽さが非常に大きいです。チャイナエアラインのほか、LCCのタイガーエア台湾などが定期便を運航しており、手頃な価格でダイレクトに香川へアクセスできるインフラが整っています。
2. 「日本の離島×アート×食」というニーズへの合致
現在の台湾人旅行者のトレンドは、大都市ショッピングから「地方での体験・癒やし」へとシフトしています。台湾自体が島国であるため、瀬戸内海の多島美に対して親近感を抱きやすく、かつ「直島」のような洗練されたアート、そして「うどん」という身近な食文化が組み合わさった香川は、彼らの求める「新しい日本」の象徴となりました。
3. SNSでの爆発的な拡散力
台湾は世界でもトップクラスのSNS利用国です。香川のフォトジェニックな景色(父母ヶ浜の夕陽、小豆島のエンジェルロード、直島のカボチャなど)は、台湾のSNSコミュニティで非常に高い注目を集めています。「みんなが行っている場所」への安心感と、「まだ誰も知らない穴場」を求める冒険心の両方を、香川の多様なスポットが満たしているのです。
⑥ まとめ:アートと麺が世界を動かす
2025年の速報データが示したのは、香川県がもはや「四国の玄関口」という中継地点ではなく、世界中の人々が明確な目的を持って訪れる「最終目的地(デスティネーション)」になったという事実です。
34.4%という驚異的なシェアを誇る台湾人を筆頭に、アートを愛する欧米層、そしてうどんという文化を体験しに来るアジアの若者たち。3年に一度の芸術祭という追い風も受け、香川県には、小さな面積の中に世界を魅了するエッセンスが凝縮されています。
「アートと麺が世界を動かす」——そんな独自の進化を続ける香川のインバウンドは、これからも日本の地方観光の理想的なモデルケースとして注目され続けるでしょう。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年(令和7年)年間値速報値、せとうちDMO「観光指標モニタリング年次レポート2024年」をもとに『となりの外国人』編集部が作成。