「日本を旅するなら、大阪は外せない」——。今、世界中の旅人たちがそんな熱い視線を大阪に向けています。道頓堀の喧騒、黒門市場の活気、そして街全体に漂う「食」への情熱。大阪は単なる通過点ではなく、日本観光のハイライトとしてその地位を盤石なものにしています。
しかし、一口に「インバウンド」と言っても、実は国籍によって大阪への「熱量」や「関わり方」が驚くほど異なることをご存知でしょうか。最新の2024年推計データをもとに、数字の裏側に隠された「大阪が選ばれる理由」を紐解いていきましょう。
① この記事の3つの驚き
データを詳しく見る前に、まずは今回の調査で明らかになった「驚きの事実」を3つご紹介します。
スペイン人の76.9%が大阪を訪れる
日本を訪れたスペイン人の実に4人に3人が大阪に足を運んでいます。これは主要国の中で突出した数字であり、大阪の街の雰囲気がスペイン人の感性に深く刺さっていることを示唆しています。
2024年の来阪外国人1,409万人はコロナ前を22%上回り過去最多
2019年の1,152万人を大きく塗り替え、大阪は今、史上かつてないほどの熱気に包まれています。
中国人は訪日客の半数以上(53.9%)が大阪へ
「東京か大阪か」ではなく「東京も大阪も」。中国からの旅行者にとって、大阪は日本観光における不可欠なピースとなっており、東京に匹敵する圧倒的な集客力を誇っています。
② 大阪インバウンドの全体像と推移
大阪を訪れる外国人旅行者の数は、この数年で劇的な変化を遂げました。まずは、その推移を数字で確認してみましょう。
| 年 | 来阪外国人旅行者数(推計) |
|---|---|
| 2018年 | 1,056.8万人 |
| 2019年 | 1,152.5万人 |
| 2020〜2022年 | データなし(コロナ禍による制限のため) |
| 2023年 | 795.8万人 |
| 2024年 | 1,409.4万人(過去最多) |
2023年は回復の途上という印象でしたが、2024年に入ると一気に爆発。コロナ前を大幅に超える1,409万人という大台に乗りました。
ここで重要になる指標が、本記事で定義する「来阪率」です。
来阪率とは?
来阪率 = 来阪外国人旅行者数 ÷ 訪日外国人旅行者数。日本を訪れた外国人のうち、何割が大阪を訪れたかを示す指標です。大阪府が観光庁の「インバウンド消費動向調査」をもとに推計した数値であり、「その国の人がどれだけ大阪に魅力を感じ、旅程に組み込んだか」という大阪への注目度を直接的に表しています。
2024年の好調の背景には、円安という追い風に加え、関西国際空港の機能回復、そして2025年の大阪・関西万博を控えた国際的な注目度の高まりがあると考えられます。
③ 来阪外国人ランキングTOP10——2つの軸で見る
大阪の人気を読み解くには、「実数(来阪数)」と「割合(来阪率)」の両面から見る必要があります。まずは、実際に何人が来たのかを示す「来阪数」のランキングから見ていきましょう。
「来阪数」ランキング:圧倒的なアジア圏の存在感
| 順位 | 国籍・地域 | 来阪客数(推計) | 来阪率 |
|---|---|---|---|
| 1位 | 中国 | 約329万人 | 53.9% |
| 2位 | 韓国 | 約270万人 | 30.7% |
| 3位 | 台湾 | 約154万人 | 26.7% |
| 4位 | 米国 | 約109万人 | 40.3% |
| 5位 | 香港 | 約82万人 | 31.0% |
| 6位 | オーストラリア | 約51万人 | 55.8% |
| 7位 | タイ | 約37万人 | 32.6% |
| 8位 | フィリピン | 約31万人 | 37.6% |
| 9位 | ベトナム | 約30万人 | 48.4% |
| 10位 | カナダ | 約30万人 | 52.0% |
数の上では、中国・韓国・台湾という近隣アジア諸国が圧倒的です。特に中国は329万人を超え、日本に来た中国人の半数以上(53.9%)が大阪を訪れている計算になります。
「来阪率」ランキング:大阪を選ぶ割合が高い国々
次に、数ではなく「日本に来た人のうち、どれだけの割合が大阪を選んだか」というランキングを見てみます。ここには、実数ランキングとは全く異なる顔ぶれが並びます。
| 順位 | 国籍・地域 | 来阪率(大阪を選ぶ割合) |
|---|---|---|
| 1位 | スペイン | 76.9% |
| 2位 | イタリア | 64.5% |
| 3位 | フランス | 59.8% |
| 4位 | オーストラリア | 55.8% |
| 5位 | ドイツ | 54.1% |
| 6位 | 中国 | 53.9% |
| 7位 | カナダ | 52.0% |
| 参考 | 台湾 | 26.7% |
非常に興味深いことに、トップ3を欧州勢が独占しています。特にスペインの76.9%(4人に3人以上)という数字は突出しています。さらにイタリア人の約3人に2人(64.5%)、フランス人の約3人に2人(59.8%)が大阪を選ぶという結果が出ており、欧州主要国において「日本に行くなら大阪は必須」というコンセンサスがあることが伺えます。
一方で、来阪数では3位だった台湾が、率で見ると26.7%と主要国の中で最低となっています。この差は一体どこから生まれるのでしょうか。
国籍・グループ別の特徴を分析
1. アジア圏:成熟したリピーターによる「目的地の分散」
アジア圏からの旅行者は、来阪数こそ多いものの、来阪率で見ると30%前後に留まります。これは彼らが「日本通のリピーター」であることと深く関係しています。例えば台湾人旅行者のリピーター率は約70%に達すると言われており、訪問先も「浅草(東京都)」が1位になるなど、特定の都市に固執しない傾向があります。彼らは大阪の魅力をすでに知り尽くした上で、2回目・3回目の訪日では北海道の雪景色や九州の温泉、四国のアート巡りなど、日本各地へ賢く分散しているのです。
2. 欧州:遠方からの旅行者による「黄金ルートへの集中」
スペイン、イタリア、フランスといった国々の来阪率が高いのは、彼らにとって日本が「一生に数回の特別な目的地」だからです。限られた滞在期間の中で、東京・京都に加えて「食と活気の大阪」を巡る黄金ルートを確実に遂行する傾向があります。また、彼らの文化的な背景が大阪の街並みと共鳴している点も見逃せません。
3. 欧米豪:都市文化と体験を重視
米国(40.3%)、オーストラリア(55.8%)、カナダ(52.0%)といった国々は、アジア圏と欧州勢の中間の数値を示しています。特にオーストラリアは55%を超えており、彼らが日本の都市部におけるナイトライフやストリートフードを非常に重視していることが分かります。
④ 考察「なぜ欧州のグルメ大国が大阪を選ぶのか」
データから浮かび上がった最大の謎は、「なぜスペイン、イタリア、フランスといった国の人々は、これほどまでに大阪に惹かれるのか」という点です。これらの国々に共通するのは、世界でも屈指の「食文化」と「対面でのコミュニケーション」を愛する国民性です。
「バル文化」と「大阪のカウンター文化」の親和性
特にスペイン(来阪率76.9%)の数字を読み解く鍵は、彼らのライフスタイルにあります。スペインには、カウンターでタパス(小皿料理)をつまみながら、店主や隣客との会話を楽しむ「バル文化」が深く根付いています。
大阪の黒門市場や難波の路地裏にある店、あるいは道頓堀のたこ焼き屋。そこで繰り広げられる「店員との距離の近さ」や「活気ある立ち食いスタイル」は、彼らにとって非常に親しみやすく、心地よいものに映ります。洗練された高級料理店よりも、人間味あふれる大阪のストリートフードこそが、欧州のグルメ大国の人々の心を掴んでいるのです。
「天下の台所」というブランドの訴求力
イタリア(64.5%)やフランス(59.8%)の人々も同様に、素材の質と調理の工夫に厳しい目を持っています。大阪が古くから「天下の台所」として知られ、安くて質の高い食が集まる場所であるというストーリーは、彼らの知的好奇心を刺激します。「東京はスタイリッシュだが、大阪は美味しい(Real Food City)」という評価が欧州の旅行者コミュニティの中で定着していることが、この高い来阪率につながっていると考えられます。
⑤ まとめ
2024年、来阪外国人旅行者数が過去最多の1,409万人を記録した背景には、二つの大きな流れがありました。一つは、日本を熟知した台湾などのリピーターが日本各地へ活動の幅を広げる中、依然として中国からの旅行者の半数以上が大阪を強力に支持していること。そしてもう一つは、スペインやイタリア、フランスといった欧州の「食の国」の人々が、大阪の街に自分たちの文化と通底する「活気と美食」を見出し、高い割合でこの地を訪れていることです。
2025年の大阪・関西万博を経て、大阪は単なる地方都市ではなく、世界中の多様な価値観が混ざり合う「多文化共生のフロントライン」としての存在感をさらに高めています。
【あわせて読みたい】
出典:大阪府「来阪外国人旅行者数」(観光庁「インバウンド消費動向調査」の都道府県別訪問率をもとに大阪府が算出した推計値)、観光庁「インバウンド消費動向調査」2024年暦年確報をもとに『となりの外国人』編集部が作成。

