私たちが暮らす街、東京。電車に乗れば多様な言語が飛び交い、観光地は連日多くの外国人観光客でにぎわっています。しかし、一口に「外国人観光客」と言っても、その実態は国籍によって驚くほど多様です。何を求めて東京に来るのか、どこに泊まり、いくら使っているのか。2025年の最新データからは、ステレオタイプな「インバウンド像」とは異なる、リアルで興味深い変化が見えてきました。
本記事では、東京都が発表した最新の調査結果をもとに、今の東京を訪れる人々の動向を詳しく読み解いていきます。
① この記事で見つかる「3つの驚き」
データを見ていく前に、まずは今回の調査で判明した象徴的なトピックスを3つご紹介します。
中国人旅行者の消費額は韓国人の約2倍
1人あたりの支出額を見ると、中国(約29.3万円)に対し、韓国(約13.5万円)と大きな差があります。同じ東アジア圏でも、旅の目的やスタイルが全く異なることがわかります。
台湾人が最も多く訪れるのは「渋谷」ではなく「浅草」
欧米諸国や他のアジア圏が軒並み「渋谷」を1位に挙げる中、台湾人に最も人気のエリアは浅草です。これには台湾の方々の「高いリピーター率」が深く関係しています。
ドイツ人の2人に1人は「7泊以上」の長期滞在
欧米豪からの旅行者は総じて滞在期間が長い傾向にありますが、特にドイツ人は突出しています。東京を単なる通過点ではなく、じっくりと腰を据えて楽しむ滞在先として選んでいる実態が浮かび上がります。
② 2025年、東京インバウンドの全体像
2025年の東京は、世界でも類を見ないほど活気ある観光都市となっています。年間の訪問者数は2,089万人に達し、消費単価も15.7万円と高い水準を維持しています。特筆すべきは、その質の高さです。満足度は80.4%、再訪意向(また東京に来たい)は83.1%にのぼり、一度訪れた人が「また来たい」と思う街であることが数字からも証明されています。
季節別の訪問者数を見ると、4〜6月(第2四半期)が最も宿泊客が多く、桜シーズンを含む春の東京への人気が数字に表れています。続く7〜9月の夏シーズンも宿泊客数は春に近い水準を維持しており、東京への外国人旅行者は年間を通じて安定した需要があることがわかります。
| 期間 | 宿泊者数 | 日帰り客数 |
|---|---|---|
| 1〜3月(第1四半期) | 約612万人 | 約130万人 |
| 4〜6月(第2四半期) | 約653万人 | 約80万人 |
| 7〜9月(第3四半期) | 約608万人 | 約89万人 |
※日帰り客はQ1(1〜3月)が最も多い。都内在住者の初詣・冬の観光など国内需要が重なる時期であることも影響していると考えられる。
③ 国籍別・東京旅行の実態
それでは、具体的にどの国の人々が、どのような東京体験をしているのか。国籍グループごとにその深層を探っていきましょう。
アジア圏:リピーターと「日常」を求める人々
アジア圏からの旅行者の特徴は、なんといってもリピーターの多さと、日本を「身近な旅先」として捉えている点にあります。
韓国:トレンドに敏感な「ご近所リピーター」
- 消費額:135,095円
- リピーター率:約50%
- 滞在日数:4〜6泊が最多
- 訪問先1位:渋谷(63.9%)
韓国からの旅行者は、LCCの普及により「週末にふらっと東京へ」という感覚で訪れる人が多いのが特徴です。消費額が全体平均より低いのは、それだけ訪日頻度が高く、1回の旅行をコンパクトに楽しんでいる証拠。SNSの影響力が強く、渋谷のカフェやファッションビルなど、東京の最新トレンドを直接体験することを好みます。
台湾:東京の「通」たちが集う浅草
- 消費額:169,932円
- リピーター率:約70%
- 訪問先1位:浅草(46.4%)
驚くべきはリピーター率70%という数字です。台湾の方々にとって東京はもはや「何度も訪れた場所」。そのため、定番の渋谷以上に、江戸の情緒を感じられる浅草や、より日本らしい体験ができるエリアが好まれます。
中国:圧倒的な購買力と「銀座」への信頼
- 消費額:293,508円
- リピーター率:約50%
- 訪問先1位:銀座(52.2%)
依然として中国人の消費額は群を抜いています。特に食とショッピングへのこだわりが強く、1位が渋谷ではなく「銀座」である点も特徴的。高級ブランドや質の高いサービスに対する信頼が、銀座という街の格とマッチしているようです。
香港・タイ・シンガポール:エリア選びに個性
香港(225,004円)の方は新宿・大久保を好みます。宿泊施設の選択肢の多さと、グルメの多様性が理由と考えられます。一方、タイ(139,315円)やシンガポール(211,500円)の方は渋谷を支持。シンガポールはリピーター率が70%と高く、より洗練された都市生活としての東京を楽しんでいます。
欧米豪:体験と「暮らし」を重視する長期滞在型
欧米豪からの旅行者は、アジア圏とは対照的に数年に一度の大型連休を利用して訪れる人が多く、滞在の仕方もよりディープです。
米国:東京を「クールな異世界」として楽しむ
- 消費額:204,160円
- 初回訪問率:約60%
- 訪問先1位:渋谷(72.9%)
アメリカ人は初めて東京を訪れる割合が高く、スクランブル交差点に象徴される「ネオン輝く東京」を求めて渋谷に集まります。消費額も高く、都内での体験型アクティビティにも積極的に支出する傾向があります。
ドイツ・フランス:文化を深く愛でる長期滞在者
- ドイツ:消費175,691円/7泊以上が約50%
- フランス:消費180,781円/7泊以上が約40%
ドイツ人とフランス人の特徴は、圧倒的な滞在日数の長さです。特にドイツ人の半数が東京に1週間以上滞在します。単に観光地を回るのではなく、路地裏を散策したり地元の居酒屋に入ったりと、「東京で暮らすような旅」を好みます。
オーストラリア:宿泊に投資する余裕
- 消費額:219,890円
- 宿泊費の割合:支出の約4割
- 訪問先1位:渋谷(74.3%)
オーストラリアからの旅行者は、支出に占める宿泊費の割合が高いのが特徴。質の高いホテルを選び、快適な拠点を構えてから東京観光を楽しむスタイルが見て取れます。
④ 考察:なぜ渋谷はすべての国籍に刺さるのか
今回の調査で、ほぼすべての国籍において訪問先1位となったのが渋谷です。ドイツ人にいたっては82.7%という訪問率を記録しています。なぜ、ここまで渋谷は外国人観光客を惹きつけるのでしょうか。
- 「東京」のイメージそのものが渋谷にある
外国人にとって、東京のアイコンは富士山でも東京タワーでもなく「渋谷のスクランブル交差点」になっています。高層ビル、巨大スクリーン、そして整然と行き交う群衆。これらが織りなす光景は、「未来都市・東京」を最も実感できる瞬間として世界中に認知されています。
- 中国人だけが「銀座」を1位に選ぶ理由
一方で、中国人だけが「銀座(52.2%)」をトップに選んでいます。世界中の一流ブランドが軒を連ね、歩行者天国が整備された銀座は、「最高の買い物体験」ができる場所として渋谷以上の価値を持っています。
- リピーターの分散化というポジティブな変化
興味深いのは、台湾のようにリピーター率が高まるにつれ、訪問先が渋谷から浅草・上野・秋葉原といった「独自の個性を持つ街」へと分散していく傾向です。初めての東京では渋谷を訪れ、2回目・3回目ではより深い文化体験や趣味の世界へと潜っていく。この多様な受け皿があることこそが、東京の強みと言えるでしょう。
⑤ まとめ:東京は「リピーターを生む街」へ
最新のデータから見えてきたのは、東京が単なる観光地ではなく、世界中の人々から愛され、何度も訪れる「ホーム」のような存在になりつつある姿です。
満足度80.4%、再訪意向83.1%という高い数字を支えているのは、東京の景観だけでなく、調査で「魅力」の上位に挙がった「治安の良さ(52.9%)」「人の親切さ(51.4%)」「衛生面の良さ(51.2%)」といった、私たちが当たり前に享受している「東京の日常の質」そのものでした。
言葉や文化は違えど、清潔で安全な街で美味しい食事を楽しみ、温かいおもてなしを受ける。その普遍的な価値が、世界中の人々の心を掴んでいます。
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出典:令和6年 国・地域別外国人旅行者行動特性調査(東京都産業労働局)、2025年 東京都観光客数等実態調査 Q1〜Q3(東京都産業労働局)、訪日外国人消費動向調査 2025年暦年速報(観光庁)をもとに『となりの外国人』編集部が作成。

